異 聞(エピソード09)

それは日曜日の夕方のことだった。私は土曜日と日曜日も仕事をしているが、月曜から金曜は本来の写真関係の仕事で大半の時間をとられてしまうので、土・日はWEB関連の仕事をするようにしている。
とはいえ、働きづめは体に悪いのと、少しでもプライベートな時間がほしいのと、さらに、ぐっすり寝たいということで、時間はかなりラフだ。それで帰宅も平日は夜遅くなることも頻繁だが、土・日は早めに帰ることにしている。

その日の夕食は外食と決めていたので、早めに帰り、着替えて玄関を出るところだった。ポケットの携帯電話が鳴った。出ようとおもったが、間一髪で切れてしまった。知らない携帯番号からだった。
写真関係のクライアントは彼ら自身も土・日が休みなので、電話がかかってくることは滅多にない。かかってきても私が出れないとちょっと間をおいてからかけなおすか、留守電に用件を入れておいてくれる。PCのサポート関係でO氏からかかってくることもあるが、それは番号がわかっている。あとは直接クライアントからのサポート依頼だ。

もし、これからすぐに来てくれといわれるといやなので、あとでかけなおすことにして、とりあえず、餌を食べに行かなければならない。その日は鮨を食べに行く予定だった。高級店ではない。回るやつだ。近くに新規オープンしたばかりの店があった。そこへいくつもりだったが、曜日が悪いのか、時間帯が悪かったのか、行列ができるほどの混みようだった。私は「待つ」ということが嫌いな性分で、列の末端について何するでもなく、30分でも一時間でもぼーっとしていることができない。そこで、別の回転鮨に行くことにした。

2軒目の店も前ほどではないが、待ち客がいた。最低でも15分は待たされるだろうと思い、さらに次の店へ行ったが、ここでも待ち客がいた。普段はがらがらに空いている店である。新潟中の家族連れ、アベック、仲間同士が「今日の夕食は回転鮨」と決めていたようだ。新潟中の人間を敵に回しても勝ち目はないので、(神田うのが出ていたコマーシャルでそんなのがあったな・・・神田うのが「みんながうののこときらうの・・・」とか言って、男が「僕がうのちゃんを守ってあげる。たとえ世界中を敵に回しても・・・」とか言って、それが世界中に広まって、ロシアだか中国だかで演説が始まって・・・その男を世界中が攻めてくる・・・最後はアパートの窓のところに、アパッチもどきの戦闘ヘリが現れてオチという・・・あれはおもしろかった。神田うの以外ならもっと面白かったのに・・・で自分がプロデューサーだったら誰を起用しようか・・・)そんなことをつらつら考えながら、最後の手段のスーパーの鮨売り場へと車を走らせた。当然、目の前に食い物のことしかない野獣に成り下がっていた私は、欲求不満と妙な連想からくる空想も手伝って、電話のことなどすっかり忘れていた。その後、鮨を食べながらアルコールをたらふく胃袋に流し込んだおかげで、その夜はぐっすりと眠れた。

翌朝、事務所に行き、メールを開くまで、携帯電話はならなかったし、過日のことは私の頭にかけらすらも残っていなかった。

メールをチェックしていると、クッシーから「携帯買ったざんす」というふざけたタイトルのメールが届いていた。受信日時を見ると昨日の深夜、正確には今日の0時過ぎだった。本文には携帯電話を買ったこと、その機種が私のものと同じこと、そして携帯電話の番号が書かれていた。あわてて自分の携帯電話を開いて着信履歴を見ると昨日の番号とぴったり一致した。せめて留守電くらい入れておけばよいのにと思ったが、クッシーはまだ携帯で電話するより、メールの方がやり易いのだろう。なにしろ極度の方向音痴のため、まわりからカメラつき携帯を買えと半ば強引に勧められていて、わたしもその脅迫者の一人だったから何も言えない。会う度に「携帯買った?」と周りから言われ、おととい意を決したのか独りで買いに行ったはずだった。

いっしょについて行こうかと申し出たのだが、クッシーは子供じゃないんだから・・・みたいな表情だったので、わたしも遠慮した。私がついて行きたかったのは実は私と同じ機種にさせないためだったが、くしくもその目論見は失敗に終わったわけだ。

その後、件の番号にかけてみた。クッシーが電話に出た。眠そうな声で・・・。そういえばまだ午前中だった。クッシーにとっては真夜中だ。携帯電話は買っても、生活パターンは変わらないようだ。

携帯電話の色を聞いた。白だかシルバーだか本人もあやふやで、どうやら私のものとは色は違うようだ。何故クッシーと同じものを持ちたくないかというと、おそらくクッシーはメカ音痴だから使い方やらなにやらきっと私に聞いてくるに違いない。それがちょっと困る。

私自身、買い換えたばかりで、まだ使い方がよくわかっていない。また、私にとっての携帯は電話する機能だけで充分なので、あれこれ聞かれても困るのである。



おかあさん・・・今日はこれといったギャグはありません。

注:0 ちょっと趣向を変えたというか、ふだんに戻してみた。実験的な部分はクッシーとの会話が一言も出ないこと。実はいつもの幼児言葉文章は書くのに倍の時間がかかる。変換を戻してみたり、文法(さほど真剣に考えてはいないが)に間違いはないだろうかとか、これくらいの漢字は小学生も知っているだろうとか余計なことまでつい考えてしまう。それに、一度「幼児言葉文章」を書くと元に戻すのにかなり苦労するのです。

※この物語は一部フィクションであり、実在の人物、団体名等とは関係ありません…が大部分、本当にあった話です。

-- 祐 筆 --