黙示録 (エピソード03)
今日、クッシーのうちにあそびに行きました。

いつもそうですが、クッシーは上がれとも言わないので、ぼくは勝手に上がって居間にあるプラモをいじくって遊んでいました。第二次世界大戦の時の戦車だとか飛行機だとかが埃をかぶって投げ捨てられたように棚に無造作におかれています。よく見ると迷彩は自分で書いたようです。ドイツ軍のキューベルワーゲン(注:1)は昔ぼくも作ったことがあるのでお気に入りです。

クッシーがいつものまずい泥水のようなコーヒーをご丁寧に豆からひいて入れているので、なかなか台所から出て来ません。プラモで遊ぶのも飽きたのでその辺に落ちている汚い本を座椅子にふんぞり返りながら何気に開いて読んでみました。

内容が「指輪物語」に似ているなと思い表紙を見ましたThe lord of the Ringsと書いてありました。

原書でした。

ようやくコーヒーカップをふたつ持ったクッシーが来たので問い詰めると

「ほんとは翻訳家になりたかった」と告白しました。
その本の栞はくろねこやまとの営業のおにいちゃんの名刺でした。

つまんないのでその話はそこでやめました。

コーヒーに砂糖が入ってないので
「まずいコーヒーは砂糖なしで飲めないよー」・・・というと、サイドボードからインスタントコーヒーの詰合わせについてくるおまけのビン入りの砂糖を出してくれました。クッシーは自分自ら豆から入れたコーヒーを他人からまずいと言われたことがないようでした。

別の棚から箱入りのお菓子を出してくれて
「このおかしはおいしいよ」と言ってカステラのようなものを一切れとってくれました。途中でテーブルの上に一回落としましたが、黙って食べました。

「しじゅうくにちの引き出物だけどなかなかいける」とクッシーも食べていました。
クッシーのおじさんが最近亡くなったことを思い出しました。チョコレートまみれのそのカステラは気のせいか少しお線香のにおいがしました。

ピンポーンと一回ではなく何回もしつこいくらいに鳴るチャイムとともにくろねこやまとのおにいちゃんが荷物を届けにきました。
中身はクッシーがおんらいんしょっぷで売る予定の縦にながーいCDラックでした。その場で広げて窓際にたてかけて実際にCDを入れてみました。

「なかなかいい」とクッシーはお気に入りのようでしたが、ぼくにはおもちゃのはしごにしか見えませんでした。
日光サル軍団にでも寄付すればと言いかけましたが、あまりにも気に入っているようなのでやめました。

そのうちクッシーはぼくを無視して廊下にCDラック(はしご)を持ち出して右から見たり左から見たりし始めたので、僕は新聞の衛星ロケット打ち上げ成功の記事を読みました。

「衛星の名前がこだまだってよー」と僕が言うと

「新幹線じゃないんだから」とクッシーが言いました。

つまんないのでこの話もやめました。

そのうちクッシーのママが帰ってきて、梨をむいてくれて、無言でほれ食べろ、と言わんばかりにおいていきました。時期が時期だけに梨かよーと思いましたが(注:2)悪いのでひとつだけ食べました。もちろんクッシーもうれしそうに食べました。

むかし僕を押し売りと間違えたあのママです。
後姿に向かって「おしうりでーす。おじゃましてまーす」と小さな声で言ってやりました。

泥水コーヒーと、線香くさいチョコレートつきカステラと、うわさの梨で・・・(注:3)

 

おかあさん・・・あしたあたり・・・ぼくは死ぬかもしれません・・・

注:1 キューベルワーゲン…ドイツが誇る水陸両用ジープ、ワーゲンがつくくらいだからフォルクスワーゲン社製だと思う。戦争の是非はおいといて、当時のドイツの作った兵器はどれもこれもかっこいい。
注:2 農薬を落とさずに出荷?した梨(二十世紀)がニュースをにぎわしていた。グッドタイミングというかバッドタイミングというか、スーパーで安売りか、まさかわざと?ではないだろうが、まぎれもなく「二十世紀」だった。
注:3 食べ合わせも悪いような気がしてきた…。

※この物語は一部フィクションであり、実在の人物、団体名等とは関係ありません…が大部分、本当にあった話です。

-- 祐 筆 --